様々な「働く人」を取材して、人生について考える、学生・新社会人に向けた学生によるウェブメディア、“ROUGH×LAUGH ROAD”。
第5回は、株式会社ブルーファームの代表取締役を務められている早坂正年さんにインタビューをさせていただいた。非常に気さくな方で、話しやすい雰囲気がありながらも、瞳の奥には情熱を感じられる、とても魅力的な方だった。デザイン事務所の経営を中心に、様々なことに取り組む早坂様の思考に迫った。
ーーーそれではよろしくお願いします。早速なんですが、まずは生い立ちについてお聞かせください。
僕は1980年9/3、愛知県生まれの41歳で、山形にある東北芸術工科大学というところに進学を機に東北に来たんだ。そこから四年間の大学生活の後に仙台で就職した。リンベルっていうカタログギフトを取り扱う会社で、カタログに載せる商品を買い付けるバイヤーの仕事を仙台と東京で計10年していたんだ。そしてその後、33歳で起業して今に至るって感じかな。
ーーーありがとうございます。では、起業した現在の仕事について教えてください。
今の仕事は、簡単に言えば、「作る人」を支援するってことかな。「作る人」っていうのも曖昧なんだけど、農業とかって今、機械化の波が来ているんだ。大量生産、大量消費の世の中になってる。大量に生産できることは良いことだけど、無理な品種改良や過度な農薬の使用など弊害もある。僕らが支援しているのは、そういった人の都合ではなく、手間をかけてでも自然と共生するかたちで農業をしている方々。そこで、「本物を作っている人」の商品をもっと世に届けよう、と「デザイン」の力でその人たちを支援できないかと考えたんだ。
ーーー「デザイン」とはなんでしょうか。
「デザイン」というのは、うーん難しいね(笑)。まあ、その本質は関係性のことを言うのかなと思っているよ。語源としては「意匠」とか「設計」のことを言うのかもしれないけど、僕がやっている仕事の中では、消費者と生産者の関係に注目しているんだ。ターゲット層に向けて、生産者が作った商品をどのように消費者に届けるか、その橋渡しの役割を担うこと、両者の関係性を作っていくことが、僕の「デザイン」かな。
ーーーわかりやすい説明ありがとうございます。それでは続いて、現在の仕事のやりがいについて教えていただけますか。
まずは結果が出たときかな。お客さんの商品が売れて利益が出ると嬉しいと思うよ。前もってお金をいただいて仕事しているから、結果を出さないといけないと言うプレッシャーがかかっている分、結果が出たときは安心するし喜びの感情が出てくる。ただそれ以上にやりがいを感じる場面があるよ。
ーーー具体的に、それはどのような時でしょうか。
お客様から感謝されたときだね。この仕事の特性上、人付き合いだったりがすごく大事で、人の顔がよく見える仕事なんだ。うまくいった時に「ありがとう〜!」だったり、「早坂さんがいなかったらダメだったよ〜」なんて言ってもらえると、数字だけには現れない、お金以上の価値を感じることができるよ。そこには、ビジネスの関係だけではない、お客様の人生に密着するくらい密接な関係が存在していて、サラリーマン時代には感じることができなかった感情に出会えているね。
ーーーなるほど。
サラリーマンをしていた頃、東京とかだと、それこそフォーマットに縛られて、数字ばかりを求めていたし、それこそ30歳になったらロレックスの時計を買ったりだとか、いいスーツを着なきゃいけないとか言う同調圧力をものすごく感じていた。大崎に来てからはそう言うしがらみから解放された感じがすごくしたよ。確かに金銭的には東京でサラリーマンをしていた頃の方が余裕があったかもしれないけど、心の余裕で言ったらダントツでこっちの方があるかな。確かにお金はある程度必要ではある。だけど、一定のラインを超えたら僕は時間に豊かである方が人生を充実するには大事なんじゃないかって思っているよ。まあそれは年齢を重ねたから気づいたことかもしれないね(笑)。
ーーー僕は仙台をいまだに出たことがなく、キラキラしてる東京に憧れを持っているのですが、東京の魅力ってなんですか。
んーそうだなあ、一番はスキルが身につくことかな。やっぱり競争が激しいから、その分身も削られるけど身につくものは多かったと思うよ。これは僕のサラリーマン時代の話になるんだけど、個人的にはすごくいい会社に就職させてもらったと思っているんだ。
ーーー労働環境が良かったとかですか(笑)?
いや、そう言うわけじゃない(笑)。その逆で、その会社の会長にめちゃめちゃしごかれたんだ。その会社には十年間勤めたんだけど、同世代の人たちより2倍くらい濃い時間を過ごせたんじゃないかって思ってる。めちゃめちゃハードだったけど、やっぱり叱ってくれる人の存在は大きいなと感じたんだ。大人になっていくにつれて、だんだんと叱られることがなくなってくるけど、人間が成長できなくなるのは、人に頭を下げられなくなったときだと思うんだ。年を重ねると経験やプライドが邪魔をして、新たな物を吸収しなくなってくる。そうなったら成長は止まってしまうよね。謙虚な姿勢でいることの大切さを強く学んだよ。起業してみてそれは強く感じたし、今後もそう言う姿勢は貫いていかなければいけないなと常に心に留めているよ。
ーーその姿勢は確かに大事ですね。僕自身、高校までは体育会系の部活に所属していたこともあり、叱られまくっていたのですが、大学に入ってからは自由度が増えた分、叱ってくれる人がいなくなってしまいました。自分でも変だとは思うのですが、あの頃は散々嫌だった叱られることが、今となってはものすごくありがたいことだったのだと気付かされました。
うんうん。そこに今の時点で気付いてるのは貴重なことだね。
ーーありがとうございます(笑)。それでは次に、起業して辛かったことを教えてください。
そうだねー、一番辛かったのは最初の1、2年かな。全然仕事をもらえなくて、起業なんかするんじゃなかったって後悔してる時間がほとんどだったよ。逆に今はほとんどないかな。もちろん、忙しくて体力的にきついなんてのはあるけど、精神的に追い込まれるなんてことはなくなったかな。仕事に対する満足感が大きな心の支えになっているよ。
ーーそれは、仕事に対して高いモチベーションで望めていると言うことですかね。
うーん、それは少し違うな。僕的には仕事にモチベーションを持ち出している時点で二流だと思うね。例えば四百円のコーヒーを提供するとする。つまりお客様に四百円の価値を提供しなければならない。そこにモチベーションなんかが関わってきたらどうだろう。モチベーションが低いから三百円分の価値のコーヒーしか入れられないなんて言ってたら大問題だよね。代金をいただいたら同等の価値、もしくはそれ以上の価値を提供しなければいけないと言うのは当たり前のことで、それをプロ意識と呼ぶんだと思うよ。モチベーションによって仕事にクオリティの差をつけちゃいけないと言うことだね。僕は常にその「プロ意識」を持って仕事に取り組んでいるよ。
ーー「プロ意識」ですか。確かに仕事に対しては常に同じクオリティを出さなければいけないのは難しいですが求められるべきものではありますね。一方で、仕事に対する考え方が最近変わってきているのも現状にあると思います。例えば今の時代、すぐ仕事を辞める人についてどう思っていらっしゃいますか。
うーん、一概にどうこう言うことはできないな。すぐ辞めるからと言って悪いなんてことないし、続けているからいいってこともないと思うよ。大事なのは「自分の軸」に沿っているかどうかだと考えているよ。
ーーー「軸」ですか。
うん、言い換えると、「信念」かな。何か自分がやりたいことがある、けど今の職場じゃそのことを実現できそうにない。だから転職して新たな環境を探そう!とかって言う理由なら、いずれはその軸に沿った環境に行けると思うし、何より本人が幸せでいられると思うんだよね。僕自身、経営者として世の中に貢献したいっていう信念があったから、起業当初の辛い時期も乗り越えられたし、充実感を持って過ごせていたんだ。ただ、なんとなくフワフワしている感じというか、特に信念とかもなく転々としているひとは、少しかわいそうだなって思うよ。進んでいるのか、止まっているのか、積極的なのか、それとも消極的なのかというように言い換えることもできるかな。合わなかったらすぐ辞めた方がいいとか、3年は働いてみるべきだとかよく言われているけど、そこには答えなんかないと思う。ただ、さっき僕が言った「信念」というのは少しいいヒントになるかな、なんて思っているよ。
ーーー「信念」ですか。確かにそれはいいヒントになりそうです。こころに響く、就職を控えた読者の皆様もいらっしゃると思います。それでは、最後の質問です。学生のうちにしておくべきこと、これはしておきたかったことなどがありましたら教えてください。
そうだなあ、今って学生のうちにしかできなことってあんまりなくなってきている気がするんだよね。学生と社会人との境界が薄くなってきている。以前より休みも取りやすくなったし、学びたくなったらまた大学に戻ってくることもできる。むしろ、社会に出てから戻って大学で勉強することで、学問の意味がもっと深まると思ってるよ。水泳に例えるなら、学生の勉強って、プールサイドで泳ぐ説明をひたすらされているようなもので、クロールだったらまず右腕をーーとか、息継ぎはーーとかみたいな感じ。でも、実際に泳いでみるとそんな習ったようにはうまくいかない。頭では理解しつつも、想像通りに体が動かないんだ。社会に出るということもそれと似ているかな。机の上でいくら勉強したとしても、働いてみたら自分のイメージしていたものとは全く違うということに気づくよ。だからまず、プールに飛び込んじゃうことも大事。まずは足掻いてみる、そこで頑張ってみるんだ。そしてもう一度泳ぎ方の勉強をすると、それが身に染みてわかるようになってるんだよね。だから働いてから大学に勉強しに戻ってくることにはすごく意味があると思うよ。
これは僕が密かに考えてることなんだけど、息子が中学を卒業した段階でうちの会社デザイナーとして雇うのもいいんじゃないかと思っているんだよね。たらたら学生をやってるよりも、みんなが遊んでる時間に社会に出ちゃって、そこで戦ってみた方が大きく成長できるんじゃないかって思うんだ。確かに学生時代に勉強や部活とか、いろんなことを経験するのは大事だと思う。でも、その時間を社会に出てプロとして働く数年間も、めちゃめちゃ有意義な時間だと思うんだよね。実際にはたらいて、そこで刺激を受けることも大切だと思うよ。
ま、こういうのも少し考えると、学生に関わらず、いろんな世界に飛び込んでみるというのは大事かもね。そこでいろんな人と会って、いろんな刺激を受けて、自分を常に晒してみる。そうすると自身の成長につながるんじゃないかな。何か燻っていたりするんだったら、まずは行動してみるといいんじゃないかな。
ーーーまずは動いてみる、これは本当に大事なことだと思います。このメディアも僕がとりあえず何か動こうと思って立ち上げたものです。今回のお話はそんな僕に刺さるものが非常に多かったです。貴重なお話ありがとうございました。
ありがとうございました。
2021.9.28
Interviewer:市岡大典
Writer:市岡大典、別處史明
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