様々な「働く人」を取材して、人生について考える、学生・新社会人に向けた学生によるウェブメディア、“ROUGH×LAUGH ROAD”。
第4回は、株式会社ラフ・アソシエイツの代表取締役を務められている鈴木未来さんにインタビューさせていただきました。とても明るい方で、お話が非常に興味深く、つい時間を忘れて話し込んでしまいました。鈴木さんは、イベント会社を経営されている方で、お仕事についてはもちろん、鈴木さんご自身のことも深掘りさせていただきました。
───まず、鈴木さんの生い立ちについてお聞かせください。
鈴木: 生まれは仙台で、ずっとここを離れたことはないです。小さい頃にいい先生に会って、小学校ぐらいからエレクトーンを始めて、それが大学にまでつながっていきます。中高はエスカレーター式と言われている学校で中学受験が終わってからはあまり勉強をしなかったので、成績はどんどん下がりました。それで高校3年の時にはそのまま併設の短大に行こうと思っていたのですが、たまたまうちのマンションの隣に住んでいた人が宮城学院女子大学の音楽科の講師をやっている先生で、高3の時に突然宮城学院女子大学の音楽科を受けないかって言われたんです。それでピアノは勿論、勉強も平均点を取らないと受からないので、家庭教師をつけて猛勉強をして、浪人せずになんとかピアノ専攻で宮城学院女子大学に受かりました。
そして大学4年生のときに、私の母が働いていたイベント会社でアルバイトを始めました。それがすごく面白くて、そのまま入社を希望してイベント会社に就職したっていうのがざっくりした学生時代までの流れです。私のいた大学の音楽科の学生って就職率100%で、ほとんどがピアノ先生か学校の先生になるんです。だから私は音楽科の中ではちょっと異端児なんですよね(笑)。でも、実際に私にとってはイベント会社が天職だったんです。
イベントの仕事は、もちろん辛いこともあったけれどすごく楽しくて、その会社に14年いました。そして、2011年に震災があって、その年にきっとみなさんそれぞれ思うことがあったと思うんですが、私の場合は、人生は一回きりだから、ということを改めて考えるようになって、じゃあ独立してやってみよう、と思いました。もともと独立なんかする気は全くなかったんですけど、 私がいた経済団体の青年部の先輩と、うちの会社のアルバイトでいてくれた子が津波で亡くなっちゃったんですよ。志半ばで亡くなったんだろうなって思ったら、私このままでいいかなってやっぱり思っちゃったんですよね。多分、震災がなかったらまだ独立せず、最初の会社にいたと思います。
───特にイベント業界というと、コロナ前とコロナ禍でいろいろなことが変わったと思うんですけど、まずコロナ前のお仕事の様子、具体的にどういうことをしていたのか詳しくお聞きしたいです。
鈴木: 私の専門が式典やセレモニー系なんですよ。テープカットや会社の周年のパーティー、記念式典とかですね。それと、業種ごとの(たとえば郵便局の局長さんだとかお医者さだとかが集まったりするような)全国大会を仕切るっていうようなのが私の得意分野なの。あとは、その当時ミスユニバースの東北大会2011と2012で運営事務局をやりましたね。ほかには、街の商店街のお笑いコンテストを毎年やるとか、そういう地元の商店街のイベントもやっていました。基本的には市内や県内、あるいは東北6県で活動していました。でも、ミスユニバースをやったとき、2012年に私たちの大会から出た仙台出身の子が日本代表になって、彼女のマネジメントをやるなかでスポーツブランドの企業とモデル契約を結んで東京で仕事をやることもありました。それがきっかけで、東京での仕事も増やして行きたいなと思っている矢先のコロナだったけどね。
───なるほど。先ほどコロナ以前のことを質問させていただいたのですが、コロナによって大きく変わったことはたくさんあると思います。具体的にはどのような変化がありましたか?
鈴木: 去年の2月の中旬ぐらいからイベント中止の要請が始まっているので、我々のイベント業界が多分1番早く自粛や延期を求められたんですよ。それで仕事が全くないっていう時も多くて、未だにそれが続いている状態なので、保たない会社も多分そろそろ出てくるかな。私も去年の仕事は2本で、今年もまだ2本しかやれていないので、本当に何もなくなっている状態で……。国は条件を緩和しようとかっていう話もあるんですけど、それでもクライアントさんからしたら30人とかで集まるのも怖い状況なので、そんななかでぜひイベントやりましょうっていう無責任なことは、やっぱり私たちからは提案できないので。だから映像配信のディレクションのような仕事の割合が多くなっています。でも、私はリアルなイベントが本職なので、やっぱりそれにはこだわりたいなって思っているんです。そうすると二の足を踏んじゃう感じかな。会社様によってはYouTube配信のディレクションに切り替えているところもあるんですけど、私はリアルにこだわりたいなと思っているので、今はじっとしてる感じです。
───コロナ禍を経て、コロナが終息した時にはどのような変化があると思いますか?
鈴木: 完全に前には戻らないと思っています。それこそ、配信とリアルのダブルスタンダードというのは残ると思います。そして、機械化が進んで、イベントの会場での入場を誘導したり、チケットをもぎったりするスタッフはいらなくなるだろうし、フェスの飲食店の行列も緩和されていくでしょうね。そうすると、私たちの会場の仕切りの能力が下がるんじゃないかと思って、それはちょっと怖いところです。だけど来てくださるお客様にとっては、会場があんまり混まないから楽になると思う。だけど昔みたいに肩を寄せ合って、大騒ぎするのは当分先なんじゃないかな。
私もまだ模索中ですけど、これからのイベントが想像がつかないっていうかね。配信だと全国に見て頂ける、全世界に配信できるけれども、そうすると会場がしょぼくなってしまう。アプローチの仕方が配信とリアルとではやっぱり全然違うので、ダブルスタンダードで考えて、会場に1万人集めて、配信でも1万人に見てもらうにはどうしようみたいな。そこらへんのことも考えるのが醍醐味でもあるでしょうけど、ちょっとまだこれだっていうかたちは見つかってないですね。
───今までのお話を聞いていると、「リアルでやること」に対する強いこだわりを感じるんですけれども、リアルにこだわる理由をお聞きしたいです。
鈴木: クラシックコンサートとかライブに行かれたことはありますか? 何て言うんでしょう、あの会場の一体感、というか空気感が私はすごく好きだし、大事だと思っているんです。あれって1人スマホで、家族でテレビを通して見る配信では得られない何かがあると思うんです。動物の本能なのかわからないんだけど、1万人なり5千人が共鳴すると自然に拍手が出ちゃう。お客様からのパワーをステージにいる人も受け取るし、ステージ上の人のパワーを私たちも受け取って帰れるっていうのは、やっぱり実際に行かなければわからないものなので、それって絶やしちゃいけないなって。
私たちが作るイベントっていうのは数百人のスタッフがいて、それぞれが自分の役割を持ってピースをはめていくんですけど、それも随所でお客様にも伝わっていてほしいし、事実伝わっている気がします。会場に入った瞬間の空気、流れているコンサート前のBGM、楽器を弾く人の姿──、なんかこういうのを絶やしちゃいけないなって言うのは凄く思うんですよね。配信の方が楽なんですよ、確かに。それでもあえて辛いほうの道に挑んで行かなきゃいけないと思っています。
───お話を聞いていて、イベント会社で働くにはいろいろなスキルが必要なんだなと思ったのですが、特に社会人として、あるいは経営者としてこれはすごく大事だなと思うスキルはありますか?
鈴木: どの会社、どの業種でも共通して「素直さ」は必要なことだと思っています。いくら偏差値の高い大学を出ていても、圧倒的にその会社で生きてきた年数が違うじゃないですか。だから先輩社員の話なんかを、まずは素直に聞いてみて、それを咀嚼できるっていうのがその後伸びる秘訣になると思います。ほかにも素直に謝ること、素直に受け入れることっていうのはすごく大事だと思っています。
とりわけイベント業界に関して言えば、なんでも面白がるっていうことが大切です。例えばYouTubeを見るときは「こういうのがウケているんだ」っていう見方をするし、公開して1時間ぐらいで再生回数が2万回とかになっている動画ってどういうものなんだろうって調べてみることもあります。そういうものもイベントに活かせるんです。コンサートに行ったら、この照明のスタイル素敵だから今度私のやる現場の照明もマネしようとか思うし、あとは本の中ですごく素敵な一節があったら、(私は台本も作っているので)台本を作るときに取り入られたらいいなと思う。すべてのことに興味を持って見ていると、それが全部活かせる仕事なので、そんな人にはこの業界はとても楽しいと思います。
───今の学生は、キャリアに関して、本当にいろんな選択肢で悩んでいると思うんですけど、どういった基準で自分の将来を決めて行けばいいと思いますか?
鈴木: 私も思うんだけれど、大学の間で決まらないでしょう。高校生のときは大学に入ることを目指して勉強してきただろうし、大学に入ったら1年生はあっという間に終わるし、2年生になって将来のことを少しずつ考え始める。でも、大学はほぼ勉強しないで終わっちゃって、どうしようみたいな状態になっちゃう(笑)。だからね、私は決める必要はないと思うんです。まずやってみる、それで走りながら考えればいい。大学のうちにそんなに大事なことを決めるっていうのは無理だと思うから。とりあえず受かった会社の中でまず行きたいなと直感で思うところに行く(直感とかって当たりますからね)。まず行ってみて、ダメだったら次を探せば良いし、それでいいんじゃないかな。
私の場合はイベント業界がたまたま天職だっただけで、それでも独立という道を選びましたし、これからもう1個会社をやりたいと思うかもしれないしね(笑)。いいんじゃないですか、いろんなことを型にはまらずね。これからは副業オッケーの会社が大半になってきますよ。なぜなら終身雇用が保証できないからですよね。だから、好きなことをやりつつそれも極める海外に一年行ったっていいし、世界のルールなんて日本の比じゃなくすごく自由だから。道はもう、無限にあると思いますよ。
───最後の質問になります。『ROUGH×LAUGH ROAD』は「様々な“働く人”を取材して、人生について考える」をコンセプトにしたWEBメディアなので、キャリア選択に不安を抱える学生や新社会人の読者に向けてのメッセージをお願いします!
鈴木: さっきも言ったけれど、学生のうちには好きなことをできる時間が多いので、それを深掘りすることが大切だと思う。あとは本を読むこと。活字を読むっていうのは、いろんな世界を知る意味でも大事だなと思うからね。若い時って、何て言うんでしょう、漠然と人生がある中にポツンといるような感じだと思うんですけど、40も半ばになると、後ろがないんだなっていうのを実感するんですよ。本当に一方通行なので、人生は。楽しんだもん勝ちだから。
そして、扉って自分で開かないと誰も手を差し伸べてくれないので。だから、誰かと会いたいとか、海外に行きたいとか思ったらその扉は必ず自分で開けること。もちろんリスクを伴うけど、いっぱい扉を開けておいた方がいいと思う。バイトの扉でも良いし、誰かと友達になる扉でもいい。なんか「ここ」にいることって楽だし、家にこもって何もせずにいれば傷つくことはない。だけど傷つくかもしれないリスクを負って扉を開けることが強靱な社会人になる第一歩のような気がします。
───「まずはやってみる」ということの大切さがよくわかりました。鈴木さんの仕事に対する考え方、そして今後社会人になっていく私たちがどうあるべきかといったことを学ぶことができました。本日はお忙しい中お時間を作っていただきありがとうございました。以上でインタビューを終わらせて頂きます。本当にありがとうございました。
2021.9.12
Interviewer:佐々木有彩
Writer:橘内優太、佐々木有彩
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